第108回国会 予算委員会公聴会 第1号
昭和62年3月19日(木曜日) 午前10時開議
出席委員
委員長 砂田 重民君
理事 今井 勇君 理事 野田 毅君
理事 浜田 幸一君 理事 林 義郎君
理事 吹田あきら君 理事 上田 哲君
理事 川俣健二郎君 理事 池田 克也君
理事 吉田 之久君
相沢 英之君 逢沢 一郎君
愛野興一郎君 伊藤宗一郎君
上村千一郎君 小此木彦三郎君
小渕 恵三君 越智 通雄君
奥野 誠亮君 海部 俊樹君
片岡 武司君 小坂徳三郎君
左藤 恵君 桜井 新君
志賀 節君 田中 龍夫君
西岡 武夫君 原田 憲君
福島 譲二君 細田 吉藏君
松野 幸泰君 村田敬次郎君
村山 達雄君 井上 一成君
井上 普方君 稲葉 誠一君
川崎 寛治君 菅 直人君
嶋崎 譲君 細谷 治嘉君
坂口 力君 水谷 弘君
山田 英介君 木下敬之助君
楢崎弥之助君 石井 郁子君
工藤 晃君 寺前 巖君
矢島 恒夫君
出席公述人
社団法人経済団体連合会税制委員長
鈴木 永二君
名古屋市立大学経済学部教授
牛嶋 正君
慶応義塾大学法学部教授
神谷 不二君
全日本民間労働組合協議会事務局長
山田 精吾君
新潟大学経済学部教授
高橋 毅夫君
税経新人会全国協議会理事長 関本 秀治君
出席政府委員
内閣官房副長官 渡辺 秀央君
総務政務次官 近岡理一郎君
北海道開発政務次官
高橋 辰夫君
防衛政務次官 森 清君
経済企画政務次官
島村 宜伸君
国土政務次官 工藤 巌君
外務政務次官 浜野 剛君
大蔵政務次官 中西 啓介君
大蔵省主計局次長
角谷 正彦君
大蔵省主計局次長
篠沢 恭助君
文部政務次官 岸田 文武君
厚生政務次官 畑 英次郎君
農林水産政務次官
衛藤征士郎君
運輸政務次官 柿澤 弘治君
郵政政務次官 小澤 潔君
建設政務次官 東家 嘉幸君
自治政務次官 渡辺 省一君
委員外の出席者
予算委員会調査室長
右田健次郎君
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委員の異動
三月十四日
辞任 補欠選任
正森 成二君 東中 光雄君
同月十九日
辞任 補欠選任
宇野 宗佑君 片岡 武司君
小坂徳三郎君 逢沢 一郎君
宮地 正介君 山田 英介君
永末 英一君 木下敬之助君
金子 満広君 石井 郁子君
東中 光雄君 矢島 恒夫君
同日
辞任 補欠選任
逢沢 一郎君 小坂徳三郎君
片岡 武司君 宇野 宗佑君
山田 英介君 宮地 正介君
石井 郁子君 工藤 晃君
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本日の公聴会で意見を聞いた案件
昭和六十二年度一般会計予算
昭和六十二年度特別会計予算
昭和六十二年度政府関係機関予算
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○砂田委員長 どうもありがとうございました。 次に、関本公述人にお願いいたします。
○関本公述人 説経新人会全国協議会の理事長をしております税理士の関本でございます。 私は、昭和六十二年度予算案に対しまして反対の立場から意見を述べさせていただきたいと思います。特に、私は税理士でございますので、税法の専門家といたしまして、そういう観点から昭和六十二年度予算案の基礎となっておりますいわゆる税制の抜本的改革について批判的な検討を進めてまいりたいと思います。 本来ならば、各党の総括質問が終わりまして、その段階でそれを十分拝聴しかつ分析しまして意見を申し述べたいところでございますけれども、今回はそれができないということについては大変遺憾であるというふうに考えております。 まず第一に、今回の税制の抜本的改革の基礎となっております売上税について申し上げたいと思います。これが中曽根総理が導入はしないと公約しておられた大型間接税であり、これは明らかな公約違反であるということを強調したいのであります。 一九七九年十月の総選挙におきましては、一般消費税が最大の争点として争われたわけでございます。これに対しまして非常に厳しい国民的な審判が下されたことは、皆さん御存じのとおりでございます。これを受けまして、同年の国会では、一般消費税によらない財政再建の検討を進めるべきである、こういう旨の決議を衆参両院におきまして全会一致で行っておられます。この決議の中には、「一般消費税は、その仕組み、構造等につき十分国民の理解を得られなかった。」こういうことが唯一の理由として掲げられております。私は、この点に注目されなければならないのではないかと考えております。今回の売上税は、この国会決議の結果、一般消費税という名称を用いることができなくなったという事情を背景にいたしまして、その後、大型間接税とか新型間接税あるいは日本型付加価値税などといろいろ言いかえられてまいってきているわけでございますけれども、最終的には今日提案されておりますような売上税と名づけられてきたという経緯がございます。 しかし、これらの名称の変遷は、学問上は何ら意義のないものでございます。なぜならば、消費税といたしましては大別いたしまして、課税物品を特掲しましてこれに課税するという個別消費税に対して、原則としてすべての取引を課税対象として、課税しないものを法律で特掲し他のものについてはすべて課税する、これが一般消費税でありまして、この二種類があるだけでございます。 〔委員長退席、今井委員長代理着席〕それ以外にいわゆる課税技術上の細かい分類はございますけれども、消費税の区分といたしましては、個別消費税と一般消費税の二種類があるだけでございます。売上税は、自民党税調さんが発行されました「税制改革Q&A」でも明らかにされておりますように、「原則として全ての取引を課税対象とする消費税」こう書かれております。でありますから、まさに中曽根総理が導入しないと約束された大型間接税、つまり学問上の一般消費税であることは明白でございます。 また、売上税の構造も、税額票による転嫁という形で一九七九年の一般消費税と異なるだけでありまして、EC型付加価値税とも全く同一であると言えるわけでございます。一般消費税案が撤回された後に、EC型付加価値税の仕組みや構造について国民の理解が得られたということも考えられないわけでありまして、この売上税法案は単に公約違反であるというだけではなくて、一九七九年の国会決議にも違反するものであると言わなければならないと思います。 第二に、今回の所得減税、つまり所得税と個人住民税の減税について意見を述べさせていただきます。 今回の所得減税は、大蔵大臣の提案理由にも述べられておりますように「中堅所得者層の負担軽減を中心とした」そういうものでなければならないはずでございます。ところが、実際に提案されております減税案は、最高税率を一挙に二三%も引き下げるというものでございます。中堅所得階層と言われる年収五、六百万円のクラスの人々についての減税率はせいぜい五、六%。ところが、年収一億円とか二億円とか、こういう超高額所得階層に対しましては、私の試算によりますと二〇%近い大幅減税となるものでございます。このように上に厚く下に薄い、これが減税案の内容でございます。 その上、いろいろな試算がございますけれども、年収九百万円以下の人々は、つまり国民の九割以上の方々が売上税の導入とマル優の廃止によりまして差し引き増税になってしまう、こういう内容を持ったものでございます。当初、法人に対する減税が配当や物価の値下げという形で一般国民に還元される、こういうような説明がされておりましたけれども、これは自民党さんの「Q&A」の新版では、この部分を削除せざるを得なかったというようなことを見ましても、こういう議論は全く科学的根拠のないものであると言わざるを得ないと思うのであります。 第三に、法人に対する減税について簡単に触れておきたいと思います。 基本税率は最終的には四三・三%から三七・五%に五・八ポイント引き下げられることになっております。一方、中小法人に対する軽減税率につきましては三一%からわずか三%しか引き下げられないわけであります。 〔今井委員長代理退席、委員長着席〕 これも、大法人に厚く中小法人に薄い減税であります。将来的には、大法人に対する税率と中小法人あるいは協同組合等に対する税率とを一本化すべきである、こういう方向が政府税調によって示唆されていることも指摘しておかなければならないところであると思います。 以上の結果、法人に対する減税一兆八千億円のほぼ六割が資本金十億円以上の三千社にも満たない巨大企業によって独占されてしまいまして、円高や内需不振などによって疲弊しております中小企業に対しましてはほとんど恩恵がない、こういう次第になっているわけでございます。 我が国における法人の税負担が国際的に見て非常に高い、そのために企業の海外逃避が行われ、いわゆる産業の空洞化の主要な原因の一つとなっている、こういう意見が一部で強く述べられております。しかし、これは全く科学的根拠のない主張でございます。我が国の場合は他の先進諸外国とは比べ物にならないほど多くの大企業優遇のための措置がございまして、大企業の実質的な税負担率は法人四税を合計いたしましても三〇%にも達していないという具体的な分析が示されているわけでございます。アメリカにおけるレーガンの税制改革におきましても、これは金持ち優遇税制であるという批判がございますが、レーガンの場合は、法人に対するあらゆる優遇措置を撤廃することによって法人税の課税ベースを大幅に拡大し、税率を引き下げると同時に税収を増大するという二つのことを同時に実現しまして、これを財源として所得税を五年間で現行レートで計算いたしましても二十兆円近い大幅減税を行っております。しかも、課税最低限を一挙に六三%も引き上げているわけであります。この点が我が国の今回の税制の抜本的改革と根本的に異なる点でございます。 第四に、マル優廃止、一律二〇%の強制分離課税について申し上げさせていただきたいと思います。 勤労者世帯の平均貯蓄高は、先ほどもお話がございましたけれども、政府の統計によりましても平均六百九十二万円、この程度でございますから、マル優を悪用するとか、あるいはそういう余裕すらないわけでございます。したがって、ごく一部の人がこれを悪用しているわけでありまして、その悪用は、現在の税務行政の調査能力からいたしますと十分対応できるものであります。しかし、それをあえて放置しておいて、マル優廃止により勤労者への負担を強化しようとする今回の改正には絶対に賛成しかねるものでございます。 特に、今回のマル優廃止に便乗しまして、従来から不公平税制として批判されてまいりました利子の三五%の分離課税につきましては、これも廃止して、一律に二〇%の分離課税で済ましてしまおうという点も厳しく批判されなければならないと思うのであります。これは減税率でいいますと、実に四三%に近い大幅なものでございます。今回の減税の中ではこれが最大であろうと思います。ところが、この減税額を実はマル優廃止による増税一兆六千億の中に紛れ込ませてしまいまして、国民の目をごまかしている点も指摘しておかなければならない重要な点であるというふうに考えております。 さらに、利子に対する一律二〇%の強制分離課税により、本来所得税や住民税を負担する義務のない低所得階層の方々も申告によってこれを取り戻すことはできない、こういう点も議論されなければならないと思います。少なくともこれは総合課税によって還付の道を開くべきである、このように考えるものでございます。 以上、売上税を除いたとの項目を見ましても、それが大資産家、高額所得者、大企業優遇の税制であり、低所得者、中小零細企業いじめの改革であるということは明らかであります。しかし、高額所得者、大企業優遇、低所得者、中小零細企業いじめの最たるものが売上税であると言うことができると思うわけでございます。 以下、売上税について個別的に検討してまいりたいと思います。 第一は、売上税はすべての物品、すべてのサービスの提供等に対して課税する最悪の大衆課税であるということでございます。五十一項目に及ぶ非課税取引を設けているので家計への影響はそれほど大きくないという説明がされておりますけれども、非課税取引もすべて売上税の影響によって値上がりは避けられないということは自民党税調さんの「Q&A」でも率直に認められているところでございます。売上税によって直接的に物価が上昇するのか、あるいは売上税の影響によって間接的に物価が上がるのか、その違いだけでございまして、消費者が物価の上昇という形でこの税を最終的に負担しなければならないという点では全く同一でございます。結果的には、ゼロ税率を適用しない限りすべての取引が課税取引に取り込まれてしまうというのがこの税の第一の特徴でございます。 第二は、売上税の逆進性の問題でございます。レーガン税制改革におきましては、所得減税の財源としてEC型付加価値税の導入が検討されたのでありますが、主として逆進的な負担が避けられない、これを理由といたしまして不採用とされております。アメリカ財務省の報告にありますように、この税は、どのような調整措置をとってみましても負担の逆進性を避けることはできないという、負担の公平とか民主主義に反する税であるということを銘記すべきではないか、このように考えるわけでございます。 第三は、免税点制度の問題でございます。一億円の免税点により業者の九割近くが納税義務を免除される、このように説明されておりますが、免税業者も仕入れ段階で負担する売上税からは絶対に逃れることができません。もし転嫁に失敗すれば、消費者と同じ立場でこの税を負担しなければならないことになります。恐らく大部分がそうなるであろうと思います。「Q&A」では「売上税導入時には物価が皆一斉に上がりますから、非課税事業者の場合も転嫁に必要な価格の引き上げを行いやすいと考えられます。」このように書かれておりますけれども、政府や自民党さんが値上げを保証してくれるわけでは絶対にございません。また、免税業者は税額票を発行することができません。ですから、課税事業者からは敬遠される結果となるでありましょう。したがって、免税業者の課税事業者への移行が避けられないと思われます。つまり、免税業者を差別することによりまして課税事業者への移行を誘導する構造を持っているのがこの制度の特徴でございます。 第四に、転嫁の問題について述べたいと思います。大企業は経済的に強い立場にありますから、転嫁が非常に容易でございます。これに対して、中小企業は経済的弱者でございます。マクロ的にはこの税の導入によりまして物価が上昇し、消費者の購買力はそれだけ低下するということは明らかでございますから、販売競争が一層激化して転嫁が困難となると考えられます。中小企業の大部分がこの税の負担により採算が悪化し、赤字に転落する危険性がございます。現在でも中小法人の六〇%程度は欠損法人でございます。ですから、この税の導入によりまして中小企業の淘汰が一層促進される可能性があると思います。 第五点は、この税制は本質的に大企業優遇税制であるということであります。そもそも、EC型付加価値税の母国はフランスでございます。そのEC型付加価値税へ移行する前のフランスの付加価値税の誕生の歴史は、製造業者売上税を下請企業や材料メーカーへと後転させるためのものでございました。つまり、力の強い大製造業者が自分たちだけでこの税を負担するのは不公平だ、こういうことでこれを後転させ、つまり後ろへ転嫁させ、下請企業が負担した前段階税額を自分の売り上げにかかる税額から控除するという前段階税額控除方式を考え出したわけであります。これが前段階税額控除方式の始まりでございます。その後、一九五四年には付加価値税と名称が変わりまして、仕入れだけではなくて設備投資や経費に含まれる前段階税額も控除の対象に加えられました。一九八六年にはEC型付加価値税へ移行しましたが、それに伴いまして卸、小売の販売段階まで課税範囲が拡大されて、今日のEC型付加価値税の姿に至っているわけでございます。 これは、中曽根総理が当初は製造業者売上税を考えておられたようでございますが、財界の圧力によりまして日本型付加価値税、つまり現在提案されております売上税に変更されたという経緯と時間的な長さの違い、つまりフランスでは数十年かかったわけでありますけれども、日本では数カ月という短い期間の間にこれがなし遂げられたという違いがありますけれども、全く似ている現象であるというふうに考えるわけでございます。その生い立ちから明らかでございますように、この税制は経済的強者がいかにして経済的弱者にこの税を転嫁していくかという知恵から生まれたものでありまして、そもそも大企業のために考案された税制であると言えるわけでございます。 このことは、輸出戻し税の制度を見ればより明瞭でございます。輸出大企業はこの税制によって莫大な輸出戻し税を手に入れることになります、最近の決算に基づいて試算いたしますと、トヨタ自動車一社で年額にして実に一千百一億円、輸出上位十社で四千九百四十三億円もの輸出戻し税が転がり込むという仕組みになっております。これは、下請企業、孫請企業、さらにはそのまた下請企業、こういうところがいわば身銭を切って納めた売上税でありますが、それが一見合理的に見えるこの税のメカニズムを通じまして輸出大企業に利益をもたらすということを示しているわけでございます。 下請業者は、これまでも円高その他を理由といたしまして毎年のように納入単価の引き下げを要求されてまいりまして、それをのまざるを得ないというような環境に置かれてまいりました。それが、売上税が導入されたからといって、税額票一枚で転嫁が保証されるはずのものではございません。結局、その立場上いろいろな形でこの税をしょい込まざるを得ないことになるだろうと思われます。 第六に、売上税は職場の労働者に対しては二重の負担を強いることになるであろうということでございます。第一は一般消費者としてであり、第二はこの税が付加価値税であるというその性質によってでございます。企業が売上税の一部あるいは全部について転嫁できなかった場合は、付加価値の主要部分を構成いたします人件費を削減することによって生き延びようとすることは必至であろうかと思われます。これは人減らし、労働強化、賃下げ、こういう形で職場の労働者にはね返 ってまいりまして、雇用条件を一層悪化させるとともに、中小企業の経営悪化による倒産などと相まって、失業問題はますます深刻になってくると思います。 第七は、物価への影響の問題でございます。物価上昇は一回限りという説明は、単なる気休めにすぎないということは既に広く知られているところでございますけれども、EC諸国では、従来の一般消費税にかわるものとして付加価値税が導入されたわけであります。本来、物価は上がるはずはなかったのでありますけれども、多くの国で物価の上昇を招いております。我が国の場合は、従来から一般消費税を持っておりません。したがって、その影響は予測が非常に困難であります。最低、税金の分だけ物価が上がるということは間違いございませんけれども、導入前の売り惜しみ、買いだめによる物価の上昇については全く予測がつきません。この点につきましては、第一次オイルショック当時の狂乱物価のことを思い起こしていただければ十分であろうと思います。そのほかにもいろいろな要因が複雑に作用し合って物価を押し上げるわけでありますけれども、導入前後を通じてかなり長期にわたる物価の上昇が続くものと予想されるわけでございます。 そのほかにも、売上税導入に伴う事務負担の増大の問題、つまり納税義務者の納税コストの問題、売上税を通じて財政の中央集権化が促進されるであろうという危険性の問題、売上税の導入によって国や地方公共団体の歳出がどれだけ影響されるかという問題、売上税の税収が五%で、大蔵省の試算のように果たして五兆八千億にとどまるのか、それとももっとはるかに多いのではないか。例えば五%でほぼ十兆円に達するであろうというような試算も出されておりますが、時間がございませんのでこれらの問題については割愛せざるを得ないことをお許しいただきたいと思います。 最後に、一番重要な点について私の意見を申し上げて、私の公述を終わりたいと思います。 政府税調の答申では、この税について、財政需要の増加に対応して安定した税収を確保できる課税ベースの広いそういう税制として位置づけておられます。政府の各種の答弁などをお聞きいたしましても、将来の税率の引き上げについては全く否定しておられません。売上税法案を子細に検討いたしますと、二十七条の「税率」のところの「百分の五」の「五」の一字だけを改正しますと増税ができるというように、条文も十分吟味して構成されていることがうかがわれるわけであります。つまり、法案の面から言いましても増税は非常に容易である、こういうことが言えるのではなかろうかと思います。 問題は、この一%当たり一兆数千億円ないしは二兆円とも言われる超大型間接税が将来何のために使われようとしているのかという点でございます。 ここに一つの資料がございます。これは防衛庁が購入された戦闘機の購入単価の推移についての資料であります。一九五七年、つまり昭和三十二年には、当時の主力戦闘機F86Fが一機一億九百八十万円でございました。これが一九六九年、つまり昭和四十四年になりますと、主力戦闘機F4EJですか、これが一機二十億二千九百万円にはね上がっております。昨年、つまり一九八六年になりますと、主力戦闘機でありますF15が百九億円にはね上がっているわけであります。つまり、わずか三十年足らずの間に戦闘機一機が百倍にもなっているわけであります。対米公約に従って日本の防衛力を強化するという政府の方針に従いますと、軍事技術の進歩と相まって防衛費は際限なく増加してまいります。 しかも、これはただいまの例でおわかりいただけますように、幾何級数的に増加してまいります。このように急激に増大する費用を円滑に賄うためには、所得税や法人税の増税あるいは自然増収にまつということは不可能でございます。売上税のような一%当たり数兆円というような超大型の間接税でなければこれに対応することはできない、こういうことであると思います。売上税は間接税でありますから、担税者は税痛を感じないでいつの間にか取られてしまうという性格を持っております。これは間接税の宿命でございます。したがって、一たん導入されてしまいましたならば、EC諸国の例に見られますように際限ない増税に道を開くことになると思われます。 以上のとおり売上税は国民生活を破壊するだけでなく、我が国の平和憲法の趣旨にも反するものでございますから、売上税法案はぜひとも撤回していただきたい、それを前提にした昭和六十二年度予算案もぜひとも組み替えていただきたい、このようにお願い申し上げまして、私の公述を終わらせていただきたいと思います。ありがとうございました。(拍手) ○砂田委員長 どうもありがとうございました。 ――――――――――――― ○工藤(晃)委員 共産党の工藤晃です。三人の公述人の皆さん、本当に御苦労さまです。 さて、関本公述人にまず伺いますが、最初述べられましたように、この公聴会が各党すべて一巡した後に行われなかった、遺憾であると言われましたが、まことに同感であります。金子書記局長の質問は総括質問でありまして、総理の施政方針並びに予算全般に対して我が党の立場からこれを質問する、これはどの党にとっても当たり前のことであり、それからまた質問時間というのも既に決まっておりますから、これをおくらさなければならない理由はどこにもないわけであります。したがいまして、我が党としましては、予算委員長に対しましても早くこれが行えるようにすべきであるという立場を再三にわたってあらわしてきたということを冒頭に申し上げたいと思います。 さて、私は、売上税の問題についてまず三問ばかり関本さんに伺いたいわけでありますが、一つは、先ほども言われましたように一般消費税は反対であるという決議の中に、仕組み、構造について理解が得られなかった。この前も中曽根首相が答弁されているのを聞いておりますと、一般消費税は一般消費税、今度の売上税は付加価値税と、何か違うかのように言っておりますけれども、これは全くばかばかしい話でありまして、付加価値税の中で税額を計算するときに仕入れ控除法がある、税額控除法がある、その二つの違いにすぎない、このように思うわけでありまして、その点が一点であります。 第二に、大型間接税という言葉が出だしたのをよく調べてみますと、これはちょうど八〇年の十一月七日政府税調の中期税制答申が出たときに、広く消費に着目する新しい間接税あるいは課税ベースの広い間接税というのが出たときに、一斉に大型間接税、大型新間接税、大型新消費税という言葉が広がって、それから国会で使われるようになったわけであります。このことの意味は、明らかに個別消費税ではないということからはっきりとしているのは、先ほど関本さん言われましたように、これは一般消費税のことをいう。シャウプの財政学によりますと、一般売上税ということになっております。この一般売上税の中で、それこそ単段階のものがある。製造者売上税とか小売売上税がある、そして付加価値税がある。確かに税調もこういうのを並べまして、そのあげく政府は付加価値税というのを選び出したわけでありますが、この幾つかのタイプの中で付加価値税というのは一番税収を漏らさず取るという特徴があるというふうに考えますが、その点いかがでしょうか。 それから三つ目の点としまして、アメリカのいわゆる税制改革は付加価値税の導入をノーと言いました。私もあの総論のところに書いてある部分と各論のところもつぶさに読んでおりますけれども、主な理由というのは不公平である。不公平というのは二つの意味があります。貧困、最も貧しい層、そこに絶対的な負担をかける、だから不公平である。第二に、収入が少ないほど税負担が重い、逆進である、だから不公平である。それに加えまして、いろいろな納税コストがかかるということも強く指摘しております。あわせて、ヨーロッパとアメリカは違う。ヨーロッパの場合、長い間接税の歴史の上に付加価値税が出てきた国とアメリカの直接税中心と違うということを言っておりました。そういうことであります。それが主な理由だと理解しておりますが、その点いかがでしょうか。
○関本公述人 お答え申し上げます。 まず第一点でございますけれども、これが大型間接税というふうな呼び方がされたのはまさに七九年の国会決議で一般消費税、これは(仮称)とついておりますけれども、によらない財政再建ということが決議されたということと関連しまして、その後税調でも一般消費税という言葉は使えなくなったということで、その関係で出てまいりましたということだろうと思います。 ただ、先ほど申し上げましたように、消費税の区別といたしましては、学問上はやはり個別に課税すべき品目を特掲して課税する個別消費税と、すべての取引に原則として課税する一般消費税、この二つしかございませんで、なおかつ一般消費税の徴収の仕方としまして製造業者売上税あるいは卸売売上税、小売売上税、それから各段階でかける取引高税あるいは最終的には四万式の中で示されました日本型付加価値税ということで、取引の都度かけますけれども、前段階税額を控除する方法、こういうようないろいろな方法があるわけでございまして、そういう意味ではまさにこれは大型間接税の言いかえであります一般消費税そのものであるというふうに思うわけでございます。 これが、それでは他の形態の一般消費税と比べてどうかという点でございますけれども、製造業者売上税でございますと、製造業が何であるかという定義が非常に難しゅうございます。これは各国で採用されてきた経緯はございますけれども、例えばカナダでもこれを変更しようというような議論が起こっております。やはり執行上のトラブルがかなりあるということでございます。それからもう一つは、サービス業は課税範囲からドロップしてしまうというような問題がございまして、それでは小売売上税かということになりますと、やはり小売業者から非常に強い抵抗が出てまいる。こういうようなことで、間違いなくどこからも取れる、しかも形の上では非常に合理的な仕組みを持っているように見える、そういう意味ではEC型付加価値税が一般消費税としては最も進化した形である。これはフランスを初めとしましてヨーロッパ各国が数十年にわたって経験してきましたその結果としてでき上がったものでありますから、そういう意味では一般消費税の中で何が合理的かというふうに聞かれますとEC型付加価値税である、しかしこれは、まさに細大漏らさず課税の対象に取り込むことができるという点で、一般消費税の中では最も広範かつ大型のものであるというふうに考えるわけでございます。 ○工藤(晃)委員 アメリカの税制改革。
○関本公述人 失礼しました。 アメリカのレーガン税革におきましては、まさに所得税の減税財源といたしましてEC型付加価値税の導入が検討されたわけでございますけれども、これは一昨々年でございますか、リーガン財務長官のレーガン大統領に対する財務省報告の中 で、先生御指摘になりましたように三つの理由を挙げて否定しておられます。 まず第一点は、まさに負担の逆進性で、これは弱者に対する、つまり民主主義に反する税金であるという点であったというふうに記憶しております。それから第二点は、徴税コストが非常に高くつく、つまり大きな政府につながるものであるということと、それからもう一点は何でございましたか、まあ三つの理由を挙げましてこれは所得減税の財源として採用すべきではない、こういうことで財源は法人税の増税に求める、こういう結論を出しているわけでありまして、この点が我が国の今回の税制改革と根本的に違うという点で、私どもはこの点を非常に高く評価しているわけでございます。 ○工藤(晃)委員 それでは、今法人税が日本は税率が高いからアメリカに出ていくとかそういうことが盛んに言われておりますが、私は大変疑問に思っているわけであります。何となれば、表面的な法人税の税率四三・三%にしろ、実質的にどれだけ税金の負担をしているかというと、私も予算委員会で二度にわたり取り上げましたけれども、大商社などは法人税を一円も払ってない、こういう例が非常に多いわけであります。したがいまして、何かアメリカの方が低くなったからそれで出ていくというのはまことにおかしな話で、実はアメリカにあれほど出ていくというのは、異常な円高になっているということが一つと、それから大企業自身が既にもうお金を大変蓄積しているからこそ出ていけるわけであって、蓄積したという中には日本の税制が大企業に甘いということもあったんだと思うわけであります。それに加えまして、仮にアメリカで税金を払うとすれば外国税額控除という制度でこれは差し引くことができるわけでありますから、これはまたプラスにもマイナスにもならないということになります。それに加えて、アメリカの今度の法人税の改革なるものを見ても、確かに税率は下げるけれども、タックスエロージョンに手をつけるため五年間で千二百億ドル法人税の増収をするというこういう事実を見れば、日本の方で経団連なんかが法人税が安い安いと言うのはそこの税率のところだけを見ているので、まことに私はけしからぬやり方だと思います。 そういうことを含めて、今の法人税のあり方について関本公述人からまたお伺いしたいと思います。
○関本公述人 お答え申し上げます。 現在の日本の法人税率は、基本税率が四三・三%、事業税等を損金に算入した場合の実効税率が五二・九二%でございますか、というふうに言われておりますけれども、これはあくまでもあらゆる特別措置を行った後の所得に対する税率でございまして、実質税負担率というふうに私どもは呼んでいるわけでございますけれども、実は大蔵省の発表しておられる数字というのは非常に限られておりましてなかなか実態はつかみにくいわけでございますけれども、最近発表されております数字を見ましても、資本金階級別に見ますと資本金が低い百万円未満とかあるいは五百万円未満というようなところは、軽減税率がございますので低くなっておりますけれども、五千万から一億円ぐらいのところをピークといたしまして、資本金階級別に見ますと資本金が高くなれば高くなるほど、つまり資本金百億円以上のクラスになると一番税負担率は実質的には下がっている、こういう実態があるわけでございます。 特に租税特別措置の利用状況等を見ますと、これは最近私、本を書くために調べたのでございますけれども、大企業――私は大企業という場合に資本金十億円以上を大企業というふうに考えておりますが、この利用率が、租税特別措置の発表されている分だけで見ましても、例えば外国税額控除は九五・一%が十億円以上の大企業によって利用されている。あるいは退職給与引当金にしますと、これは六五%がそうである。あるいは受取配当の益金不算入につきましても七四・八%というぐあいに、特別措置のほとんど大部分が先ほど申し上げました三千社に満たない資本金十億円以上の大企業によって独占的に使われている。この結果、実質税負担率が非常に低くなっているということでございまして、決して日本の法人税の構造あるいは税率が日本の大企業の海外流出あるいは海外逃避といいますか、産業空洞化の原因になっているのではなくて、この原因はあくまでも安い労働力、安い原料を求めて、今この円高を契機といたしまして海外へ流出しているわけでありまして、これは決して法人税制のせいではない、このことははっきり言えるのではないかというふうに考えております。 ○工藤(晃)委員 最後に、山田公述人に一問お伺いします。 先ほど、多くの経営者が法人税減税になってもそれを国民に還元するということはないだろうという調査結果だと理解しておりますが、それにつけても、大蔵省が我々に出している資料に、例えば第一分位は一万九千円法人課税が返ってきますよとか、第二分位は二万六千円返ってきますよとか、第三分位は三万一千円返ってきますよとか、大変麗々しく数字を挙げてこれは返ってくる、こういう計算をごらんになっていかがでしょうか。法人税が仮に間接税だとするならば、必ずこれはだれかほかのところが負担するということでこういう数字を挙げられるだろうと思いますが、法人税が間接税であるわけではない。それから、いろいろな還元があるとしても一年先か二年先かというのでも、それならすぐにあらわれるこの結果の数字になるわけがない。しかも現実問題として、多くはそういうことはないだろうと言っている。それにもかかわらずこういう数字が出てくるという問題。もちろんこれは私たち国会の中で追及することなのでありますが、公述人としてどうお考えか、それを最後の質問といたします。 ○山田公述人 調査結果は先ほど申し上げたとおりで、我々としては、大蔵省が主張しているいろいろな学説がございまして、それを丹念に今検討をしているさなかなんですが、短期的には法人税の転嫁は不明確だということと、長期的に見た場合に、法人税の税率引き上げが行われても法人の税引き利潤率は低下はしない、したがって法人税が転嫁されるというにすぎない、そういうことにしかこれはすぎないんじゃないか。 それからもう一つは、法人税の転嫁が最近の学説の一般的傾向であることは否定できません。しかし、今回の増減税試算のような単年度の評価の中にすべて還元されるという形で算入するのは余りにも乱暴だということなんです。減税効果を極大化するための便法としか考えられない。特に、円高デフレの不況の中にあえぐ多くの産業、企業にとっては、企業力維持のための内部留保や企業生き残りをかけた新事業展開等への行動が当然予想されますから、配当還元については日本の企業は業績に応じた配当変動を嫌っております。そういうことで、安定的に配当維持をしようとする方が一般的であることから、実態を事実上は無視したものだというぐあいに私どもの見解としては大蔵省の考え方についてまとめをしております。 以上、ちょっと申し上げておきます。 ○工藤(晃)委員 どうもありがとうございました。 ○砂田委員長 これにて公述人に対する質疑は終了いたしました。公述人の皆さんに一言ごあいさつを申し上げます。 各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。 明日は、本日に引き続き午前十時より公聴会を開催いたします。 本日は、これにて散会いたします。 午後四時二十二分散会
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