『納税者の権利救済制度確立のたたかい』(12) 著著、執筆TOP

異議審理の実態と代理人による異議申し立て

異議申し立て、審査請求の手続きの実態はどうなっているのか、それに対して有効に対処するにはどうしたらよいのかが現在の重要な課題となっています。

 そこで、紙数が限られていますが、大まかに実態と対策について総まとめ的に触れておきたいと思います。

 民商の会員さんの事例では、まず、調査段階で会員や役員、事務局員の立ち会いを認めるかどうか、立ち会いがあると守秘義務を口実に調査を打ち切り、帳簿書類の提示がないという理由で青色申告の場合は青色申告の承認を取り消し、白色申告の場合と同様に反面調査で基本となる収入金額をつかむとか、従業員数や事業の規模を示すなんらかの指標に基づいて収入金額まで推計によって求めるなどして、これに同業種、同規模の青色申告者の特別経費などを控除する前の所得(特前所得)率を乗じて所得金額を推計するという方法で更正処分をするのが一般的といえます。

 また、もっとひどい例では、家族の人員から標準生計費を求めて所得を推計するなどの方法も用いられています。

 しかし、いずれも白色申告に対する更正処分ということで、更正の理由はまったく記載されていません。青色申告の場合は、まず青色申告の取り消し処分がされます。青色取り消しの処分には理由を附記することが義務づけられていますから、更正処分の取り消しを求める異議申し立てとあわせておこなっておくことが必要です。青色取り消し処分が取り消された場合は、それだけで更正処分は理由附記がないので当然に取り消しとなります。

 異議申し立てをしますと、異議担当者が決められ、改めて調査をし直す場合もありますが、推計課税の場合は、実額の主張をするのであれば帳簿書類や領収書、請求書等の提示を重ねて求めてくるでしょう。しかし、こういう異議調査のやり方は、不服審査制度の在り方としては不適当です。その理由は、前々回に述べたとおりです。

 異議申し立ては、処分のあったことを知った日(通知書が配達された日)の翌日から2カ月以内に、原処分庁に対しておこないます。例外として、青色申告に対する更正処分については、異議申し立てを経ないで国税不服審判所に対して審査請求ができますが、青色申告を取り消された場合は、この選択はできません。・料調調査」など、国税局職員の調査に基づいておこなわれた処分であっても、国税局長に対する異議申し立てを経ないと審査請求はできません。

 異議申し立ての審理手続きで重要なことは、処分の理由に対して異議申立人に対して意見を述べる機会を与えなければならない(通則法84条1項)という手続きです。従って、異議申し立てと同時に処分の理由開示の請求をしておくことが必要です。処分の理由が分からなければ、意見を述べる(反論する)こともできないからです。理由開示を求めても、ほとんど応じないのが実態ですが、異議審理手続きを争う場合に、処分理由の開示を求めたが応じなかったことを明らかにしておくうえで重要です。

 異議申し立て後、3カ月を経過しても異議決定がないときは、異議決定を経ないで審査請求をすることができます(通則法75条5項)が、この場合は、異議審理庁が、処分の理由を記載した書面をもって、審査請求ができる旨の通知をすることになっています(通則法111条)。実際には、よほどのことがないかぎり3カ月以内に異議決定を出しています。これは、国税庁が、異議決定は必ず3カ月以内にするように強く指導しているからです。その理由は、原処分の理由を開示したくないからと思われます。

 なお、異議申し立ては、代理人によってすることができます。代理人は異議申し立ての取り下げを除いて異議申立人に代わってすべての行為ができます。補佐人は、異議審理庁の許可が必要ですが、代理人は委任状をつけさえすればだれでもできます。

 KJDBNAGGRGREQ審査請求の審理と実額主張の検討 異議決定では、更正処分と違う数字が示されることもあります。つまり、・異議申し立てがあったので、調査し直した結果、所得金額は更正処分の金額を上回るので、その範囲内でおこなわれた更正処分は適法です」という論法が第一の類型です。

 もう一つの類型は、当初処分と全く同一金額を異議調査の結果として示すものです。この場合は、異議決定の理由を更正処分の理由とみなして以後の手続きをすすめざるを得ません。もちろん、この場合、更正処分と全く同一の金額を示し、その理由を書いただけで異議決定の理由として十分であるとはいえません。なぜならば、前回述べたように、更正処分の理由が示されなければ、審査請求書に「処分の理由に対する審査請求人の主張」(通則法87条3項)を記載することができないからです。

 異議決定書が送達されたら、それを受領した日の翌日から1カ月以内に国税不服審判所長(実際には、各国税局の地域ごとに設置されている国税不服審判所支部の首席国税審判官)に対して審査請求をします。その期間を経過してしまうと、更正処分(異議決定で一部取り消しがされた場合は、取り消されなかった残りの部分)が確定してしまうので、審査請求期間については十分注意が必要です。

 審査請求書は、正副2通提出しますが、控も作って受付印をもらっておくことが必要です。

 審査請求書が提出されると、副本が処分庁に送付され、処分庁から答弁書が提出されます。答弁書は、おおむね異議決定書と同じことが記載されている場合がほとんどです。答弁書と同時に、原処分庁から「所得調査書」等の処分の根拠となった文書が審判所に提出されます。

 審判所は、処分庁から答弁書が出た段階で担当審判官を指定して、答弁書を審査請求人に送付するとともに、担当審判官の指定を通知してきます。以後の審理手続は、この担当審判官を通しておこなわれることになります。審判所内では、審理は担当審判官と2人の参加審判官の合計3人の合議でおこなわれることになっていますが、担当審判官以外は審査請求人に通知もされず、面会もできません。いわば覆面審判官で、原処分をした税務署長が、横すべりで審判官になり、参加審判官として審理に参加しているかもしれません。これは、審理の公正を損なうものですが、現行通則法の下では是正させる手段は法的に講じられていません。

 審査請求人は、答弁書に対する反論書を提出することができるほか、担当審判官に面接して意見を陳述することもできます。また、原処分庁から提出された所得調査書等の処分の根拠となった証拠資料の閲覧を請求することができます。推計の場合、この所得調査書等で初めて同規模、同業者の売上金額や所得率、その平均値などが判明しますが、A、B、Cなどの記号で表示されているだけで、同業者なるものがどこのだれなのかは全く不明です。この点について釈明を求めても守秘義務を理由に同業者は開示されませんが、審査請求人としては、その同業者が本当に存在するのか、立地条件その他の点で果たして類似性があるのかなどは証明されていませんから、開示を求めることは必ずしておくべきです。

 審査請求人としては、形式的な所得調査書だけでは処分の適否を判断し、さらに反論することができませんから、調査に関するすべての証拠資料の審判所への提出を求め、その閲覧も求めておくべきです。この場合、担当審判官は、必要があると判断したら、原処分庁に対して提出を求めることになりますが、閲覧請求の対象となるのは、原処分庁が任意に提出したものだけという解釈を審判所ではとっています。この点については、通則法の改定にあたって十分追及されていなかった点です。今後の運動のなかで解釈を変えさせていくことが求められます。

 担当審判官は、原処分庁に対する調査よりも、審査請求人に対する調査に力点を置いているのが実情です。ただ、審査請求段階では実額の主張と立証をおこない、原処分の全部または一部を取り消させようという方針で臨む場合は、当初の調査、更正処分、異議決定が違法・不当であったとしても、裁判までやろうという方針でないかぎり、行政段階での救済手続きは審判所の裁決が最終的なものとなりますから、実利を勝ちとるためには審査請求段階できちんと対応しておくことが必要だと思います。

裁判は、更正処分と裁決の両方の取り消しを求めて

 審理が済むと、担当審判官と参加審判官の合議で、裁決書の案が議決され、審判所長がこれを決裁します。その裁決書謄本が審査請求人に送達されます。

 審査請求手続における審査請求人の権利については、前号までに述べたところを参照してください。裁決後の処分になお不服がある場合はいよいよ裁判ということになります。

 更正処分取り消しの訴え、青色申告取り消し処分取り消しの訴えは、裁決があったことを知った日から3カ月以内に地方裁判所に対して提起しなければなりません(行政事件訴訟法14条1項、裁判の管轄については、裁判訴法24条、33条)。不服審査の場合は、・処分があったことを知った日の翌日から」となっていますが、訴訟の場合はその日から3カ月以内ですから1日短いことになります。

 更正処分取り消しの訴えと同時に、審判所の裁決取り消しの訴えも合わせて提起することを忘れないようにしてください。前号で述べた税務争訟における「争訟物は何か」の問題を裁判で争うとすれば、この裁決取り消しの訴えによって、国税通則法の規定が、原処分の理由をめぐって不服審査手続、訴訟手続の全過経を通じて争う構造になっていることを裁判所に理解させ、下級審から最高裁の判決を変えさせるようにしていかなければならないと思います。そのためには、更正処分取り消しの訴えとともに、裁決取り消しの訴えのなかで主張していくことがより効果的だと考えます。

 なぜならば、審査請求までの段階で原処分の理由が最終的に確定されることが予定されているので、以後の争いは、その原処分の理由をめぐって展開されるはずだからです。審査請求や訴訟の段階で、課税庁側が理由を自由に差し替えできることになれば、納税者は絶えずそれに振り回され、翻ほう弄ろうされることになり、民事訴訟における当事者対等の原則にも反することになります。課税庁は、調査権を持っており、不服審査や訴訟の段階に至って改めて調査をおこない、新しい証拠を出してくるということを平気でやります。このような課税処分取り消し、裁決取り消し訴訟の在り方は、どう考えても著しく社会正義に反するものといわなければなりません。

 12回にわたる連載は、今回が最終回となりましたが、どちらかというと大変理窟っぽい議論にお付き合いいただき、ありがとうございました。最後に、改定通則法成立の際の衆参両院大蔵委員会の附帯決議を、権利救済制度確立のためのたたかいの一つの成果の証あかしとして掲載します(40頁)。不服審査、税金裁判で大いに活用していただくよう願うものです。

 また、不服審査手続きの手引きとして、私も参加してまとめられた『不服審査と納税者の権利』が1989年に全商連から発行されています。そして、1996年に消費税についての不服審査などを加えた改訂版が発行されました。それらを権利学習のために是非活用されるよう期待します。KJMGAKLGRGREQ(=おわり)

(せきもと ひではる)

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