『納税者の権利救済制度確立のたたかい』(6) | ← | 著著、執筆TOP | → |
行政不服審査法の概要昭和37年(1962)年10月1日以降、行政不服審査法の施行に伴い、更正・決定など、税務上の処分についても、原則として行政不服審査法の規定によることになりました。ただし、「処分の特殊性」ということで、国税通則法に例外規定が設けられており、その部分については国税通則法によることになっていました。 以下、新しく施行された行政不服審査法に定められた不服審査の手続きが、この法律の施行まで効力を持っていた訴願法からどのように変ったのか、行政不服審査法の概要をみておきたいと思います。 行政不服審査法は、第1条にその目的を次のように規定し、この法律の立法の趣旨を明らかにしています。 第1条 この法律は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民に対して広く行政庁に対する不服申立てのみちを開くことによって、簡易迅速な手続による国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする。2 行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に関する不服申立てについては、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、この法律の定めるところによる。 この第1条の規定で明らかなように、行政不服審査法は、第4条に列挙されている「国会の決議による処分」「裁判所等の行なう処分」「刑事事件に関する法令に基づく処分」など、行政上の不服審査になじまない処分を除いて、原則としてほとんどの行政処分や、行政庁がやるべきであるがやらないこと(不作為といいます)について不服申し立ての道を開いています。 また、不服申し立ての種類は、直近上級庁に対する審査請求と処分庁に対する異議申し立ての2種類とし、処分庁に上級庁がない場合は処分庁に対する異議申し立てだけができることになっています(5条、6条)。 審査請求、異議申し立ては、代理人によってすることができ、代理人については特別な制限(弁護士その他の資格者に限るなど)を設けていません(12条)。 審査請求期間は、第1審としては、処分があったことを知った日の翌日から起算して60日以内、異議決定を経ておこなう場合は異議決定があったことを知った日の翌日から起算して30日以内としています。 このほかにも、審査請求書の記載事項、口頭による審査請求、処分庁経由による審査請求など手続き上の規定が設けられています。この手続きのうち、重要なものはおおむね次のようなものです。現行の国税通則法の不服審査についての規定と比較してみてください。
行政不服審査法は、前記のとおりその20条で異議申し立てができる処分については、異議決定を経た後でなければ審査請求をすることができない旨を定めているので、第三節において異議申し立てについての手続きを以下のとおり定めています。
行政不服審査法は、第四節において不作為についての不服申し立てについても次のとおり規定しています。なお、不作為についての不服申し立ては、その不作為にかかる行政庁に上級庁があるときは、その上級庁に対する審査請求をおこなうか、不作為庁に対する異議申し立てをするのかいずれかを選択することとされています(7条、不作為についての不服申し立て)。この場合は異議申し立ての前置を要求していません(52条、処分についての審査請求に関する規定の準用)。
以上のような行政不服審査法の規定について、国税通則法は、75条「行政不服審査法との関係」そして「国税に関する法律に基づく処分に対する不服申し立てについては、この節(不服審査)及び他の国税に関する法律に別段の定めがあるものを除き、行政不服審査法の定めるところによる」と定めながらも、「別段の定め」として次のような規定をおいていました。
以上でみてきたとおり、行政不服審査法が、一審としての異議申し立ての期限を、処分があったことを知った日の翌日から60日以内としているのに対し、国税通則法による「別段の定め」として、約半分の1カ月以内と短縮しているほか、青色申告という所得税法、法人税法の特別規定を受けて、青色申告者に対する更正処分については、異議決定を経ないで審査請求をすることができるという規定をおいたり、従来からあった庁協議団や局協議団について、規定上ではその機能を強化し、尊重するようにみえる文言上の改訂(「協議を経なければならない」を「議決に基づいてしなければならない」と変更)を加えるなどの規定を設けています。 このうち、青色申告者に対する異議申し立てと審査請求の選択は、所得税法には通則法の制定前からありましたが、法人税法では、青色申告法人でも異議申し立ての前置を強制していた点が注目されます。 しかしながら、行政不服審査法の規定が、税務上の不服審査において完全に履践されていたならば、かなり権利救済の成果を上げていたはずだと思われます。結果的には、行政不服審査法の規定が、異議申し立てや協議団における審査請求事案の審理において、ほとんどないがしろにされていたということになります。 これは、裏返せば、われわれ納税者の側も、行政不服審査法の活用という点では大きな立ち遅れがあったということになるのではないかと思います。 (せきもと ひではる) |
『納税者の権利救済制度確立のたたかい』(6) | ← | 著著、執筆TOP | → |