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交換の特例適用の実例 - 使い方で大きな節税効果

 所得税法や法人税法では、土地や建物の交換についての規定をおいています。等価交換であれば、そこから利益が生まれるということはありませんから、税金をかける必要はないという考え方がその基本にあるからです。

 ところが、この交換が税法上認められるためには、かなり厳しい条件が設けられていて、等価交換ならなんでも税金がかからないと思っていたら大変な間違いです。

 具体的な話に入る前に、税金のかからない等価交換の条件を簡単にみておきます。

 第1は、交換する資産が同一であること。例えば、「土地と土地」「建物と建物」という同一種類のものでないと税法上の交換にはなりません。

 第2は、交換した資産を交換後も同一の用途に供すること、宅地は宅地として、農地は農地として農業の用に供することが必要です。

 第3は、交換にあたって面積や場所の違いで、交換差金の授受がある場合は、その差額は大きい方の価額の2割以内であること、それ以上の金銭の授受があれば、全体が、時価による売買として扱われます。

 第4は、相互に、交換のために取得したものでないことが必要です。Aさんが、Bさんの持っている甲という土地を欲しいので、別のところに乙という等価の土地を買って、これをBさんに渡し、Bさんの甲土地を交換で手に入れるというのは、Aさんの買った乙という土地が、交換の目的で買ったものですから、税法上の交換には当たらないということになります。

 第5は、交換資産は、相互に1年以上所有していたものであることが必要です。これは、第4の交換のために購入したものでないことを形式上でも確認することになるからでしょう。

 ですからAさんが3000万円の土地の上に2000万円の建物を持っており、これをBさんの持っている2000万円の土地とその上に建っている3000万円の建物とを一括して交換しても、全体では等価ですが、3000万円の土地と2000万円の土地の交換、2000万円の建物と3000万円の建物の交換ということになり、いずれも1000万円の交換差金の授受がおこなわれたことになり、税法上の交換としては認められません。等価交換の問題で税務上のトラブルが発生するのはこういう場合が多いようです。

 市街地の中心に100坪ほどの土地を持って設計事務所を経営しているKさんから、郊外で駐車場を十分とれる200坪ほどの農地を取得する目安がついたので税法上有利な方法で取得することができないか、という相談が持ち込まれたのは5年ほど前でした。バブルが崩壊したとはいえ、まちなかの100坪は、売却価額1億円くらいになります。税金は分離課税でも2500万円くらいになり、建物が建てられるほどの額になります。

 そこで、200坪の農地を持つMさんと3人で相談して、まずKさんの土地100坪とMさんの農地200坪の交換契約を結ぶことにしました。Mさんは、もともと200坪の農地は売却してもよいと考えていましたから、それならほぼ等価になるKさんの市街地100坪を交換取得した上で売却しても、税引き後の手取り額にかわりはありません。

 農地を取得したKさんは、農地を転用して事務所の敷地に使用すれば、土地売却について譲渡所得は発生しません。この場合、宅地と農地の交換であっても、交換後に宅地に地目変更し、事務所の敷地とすれば、交換後も同一の用途に供することになりますから、税法上の交換の特例が適用されることになります。

 交換の特例は、交換する双方が特例の適用を受けることを求めているわけではありませんから、Mさんは、交換の時点で農地について譲渡所得が発生し、課税されますが、Kさんと交換した市街地の売却では、時価で取得し、時価で売却しただけですから、譲渡所得が発生する余地はありません。

 こうして、Kさんは、税金のために用意しておいた2500万円ほどの資金で事務所を建築し、その後も営業を続けています。

 もっとも、このような交換の場合、中間省略などで登録免許税を節約することはできますが、不動産取得税はKさんもMさんも負担しました。実際に不動産の取得がお互いにあったのですから、それはやむを得ないことです。

 このように、交換の特例も、使いようによっては納税者に大きな利益をもたらすことがあります。しかし、要件が厳しいので、十分注意してください

(せきもと ひではる)

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