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遡った期限後申告の効力--重加算税を争点に本税まで取り消し

 国税通則法(通則法)70条は、国税の更正、決定等の期間制限(除斥期間)について、@単純過少申告の場合は法定申告期限から3年間、A無申告の場合は5年間、B「偽りその他不正の行為」により脱税した場合は7年間更正または決定をすることができると定めています。

 これに対応して、国税の徴収権は、原則として法定申告期限から5年間、「偽りその他不正の行為」により脱税した場合は7年間で時効により消滅することになっています(通則法73条)。

 今回の事件は、平成8年の土地譲渡について、平成9年3月15日にした申告を調査したU税務署が、その譲渡が平成4年のものであると認定して、平成10年6月末ごろに期限後申告をさせたうえ、重加算税までかけたというものです。

 これは、一団の宅地造成にかかわるものだったため、被害者はO氏をはじめ5人で、追徴税額も、当初申告のほかに2000万円を超えました。

 事件の内容は、バブル崩壊に伴い土地譲渡の分離課税の減税が議論されていたころだったので、開発業者は、譲渡所得に対する所得税、住民税控除後の売主の手取り額を坪(3.3平方メートル)当たり5万円という仮契約をし、平成4年に売主に対して手取り額だけを内払いし、本契約と登記、残代金の支払いは平成8年におこなっていました。

 U税務署は、この譲渡は平成4年分だとして平成8年分の確定申告を取り消したうえ、平成10年6月末ごろに納税者を脅迫して平成4年分の期限後申告書を提出させました。さらに、追い打ちをかけるように、「仮装、隠ぺい」にあたるとして重加算税をかけてきました。

 期限後申告の強要だけでも納得していないO氏らは、重加算税で怒りを爆発させ、さっそく異議申し立てをしました。

 異議決定では、O氏らが開発業者の指示に従って平成8年分として申告しただけで「仮装、隠ぺい」はなかったと認めて重加算税を取り消し、過少申告加算税に変更しました。これが本件の核心の部分となります。

 私が依頼を受けたのはこの段階でした。

 重加算税が取り消された以上、国税の徴収権の消滅時効7年の「偽りその他不正の行為」により脱税した場合に該当するはずはありません。そうだとすれば、平成4年分の国税の徴収権は、法定申告期限の平成5年3月15日から5年を経過した平成10年3月15日で、時効により消滅します。

 期限後申告書を提出させられたのは平成10年の6月末ごろですから、すでに時効が完成しており、本来無効な申告になります。したがって、O氏らの期限後申告によって納付された税金は国の不当利得になります。

 審査請求ではこの点を主張し、加算税だけでなく本税を含めた全額の取り消しと還付を請求しました。

 処分庁は、答弁書で、重加算税の課税要件である「仮装、隠ぺい」よりも脱税の場合の「偽りその他不正の行為」の方が広い概念であるから、本件の場合、徴収権は消滅しておらず、期限後申告は有効であるという珍論を主張しました。

 シャウプ勧告により創設された重加算税は、脱税犯として起訴されない場合でも、故意に税を免れている場合には簡易な手続きで行政罰を科することができるようにする趣旨で設けられた制度ですから、重加算税の要件である「仮装・隠ぺい」は、脱税の場合の消滅時効の要件である「偽りその他不正の行為」より広い概念であることはその文言や立法趣旨からも明らかです。

 審判所は、処分庁のこの主張では原処分を維持することは困難と判断したようです。審査請求中の平成12年1月に、原処分庁は突如として平成4年分の期限後申告と過少申告加算税など全部を取り消す決定をし、納税者に通知してきました。

 結局、納税者の主張が全面的に認められ、あらためて、平成8年分として期限後申告をすること、この申告については、無申告加算税など一切の附帯税をかけないことで処分庁との話し合いがつき、一件落着となりました。

 裁決で平成4年分の期限後申告と加算税を取り消した場合、先例として残ることになるので、それを避けるための措置だったのでしょう。

 O氏らが重加算税の取り消しという異議決定をかちとっていたので、加算税を手がかりとして全面勝利を得たまれなケースです。権利闘争の重要さをあらためて感じさせられた事件です

(せきもと ひではる)

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