『納税者の権利事件簿』(2) 著著、執筆TOP

無予告の現況調査は単なる事前通知

 民商会員に対する調査は、法人課税部門でも、個人課税部門でも、だいたい二人一組で、事前通知なしに、いきなり納税者の自宅や事業所に税務署員が現れるのが通例のようです。

 私はこれを「臨戸による事前通知」だと解しています。いきなり調査に来て、直ちに調査を始めたいと言ってみたところで、納税者が、その日、都合がつくかどうか分かりませんし、都合が悪ければ調査の延期を求めるのは納税者の当然の権利だからです。ふつう、他人の家にお邪魔するのに、事前に都合を聞いてからにするのは、個人間の訪問であっても当然の常識です。まして、公権力の行使としての税務調査の場合、より慎重な手続きが求められることになります。ですから、税務署員のいきなりの訪問に対しては、都合を打ち合わせて、あらためて出直してもらうのが通常の対応と心得ておくことが必要です。

 それから班会などを開いて、調査に対する対応をあらためて学習・検討しても遅くありません。

 日時の合意ができて、いよいよ調査当日になると、まず第一に問題になるのは、会員の立ち会いの問題です。税務職員は、守秘義務と税理士法を持ち出して、第三者の立ち会いを認めないという態度を原則として崩しません。国家公務員法や税法上の守秘義務は、職務上知り得た秘密を洩らしてはならないというものですが、調査をされる相手方納税者に関する秘密であれば、その当の納税者自身が同意のうえ立ち会ってもらっているのですから、守秘義務は解除されていることになります。

 納税者の取引先などに関する秘密や個人情報であれば、納税者本人に対して洩らしても守秘義務違反になりますから、税務署員の守秘義務を理由とした立ち会い拒否はそもそも理論的には成立しないことになります。

 ただ、この問題での押し問答で、税務調査を打ち切り、帳簿書類の不提示を理由とした青色申告の承認取り消しや、3年さかのぼっての推計課税による更正をされるのは、その後のたたかいが大変な困難を伴うので、たとえば、立会人は隣室でやりとりを聞きながら、調査の行き過ぎを監視するとか、そのやりとりのなかから権利学習をするという対応も考えてよいでしょう。

 第二の問題は、調査理由開示です。この点について税務署員の対応は「所得の確認のため」という程度を出ません。最高裁判決は、質問検査権の行使の要件の一つとして「客観的な必要があると判断される場合」と限定的に解釈していますので、「所得の確認」などという抽象的な表現で「客観的必要性」の要件を満たしているとはいえません。

 しかし、この問題でも、納税者が納得する理由が開示される可能性はほとんどありません。ただ、道理を尽くして、税務職員に対して調査理由の開示が必要であることを教育することは、主権者である納税者として必要だという観点を堅持しなければならないと思います。

 いずれにしても、理不尽な調査を甘受するいわれはありませんが、調査打ち切り、青色取り消し、3年さかのぼっての推計課税、異議申し立て、審査請求、裁判となれば、経済的にも精神的にも納税者は大変な負担を強いられることになりますから、申告額が正当であることに自信をもって、当初の調査段階あるいは異議申し立て、おそくとも審査請求段階までには実額の立証をすべきだと私は考えています。

 私が現在受任しているK民商の会員に対する更正処分に対する審査請求でも、審査請求の理由の最後に「審査請求人は、原始記録ならびに収支計算の基礎となる資料を保存しているので、原処分の理由に対する反論の権利を留保するとともに、各年分の事業所得の額について実額の主張と立証をおこなう予定である」旨を付記し、現在、あらためて申告額を算定し直し、立証の準備をすすめています。

 このように権利救済制度を有効に活用してたたかうためにも、日常の資料の整理や記帳をきちんとし、正確な申告をしておくことが、結局、自分自身の権利を守るための基本であることを、これから迎える2002年分の所得税の確定申告にあたってもしっかりと確認しておくことが必要です。

 正しい申告をしたら営業や生活が成り立たないとしたら、それは税制が悪いからです。それを正すためにこそ納税者運動はあるのだと思います

(せきもと ひではる)

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