I 行政訴訟の理論

1.概論
税務訴訟は、通常、更正処分など課税処分の取消訴訟がその中心ですが、このほかにも、異議決定や裁決の取消しを求めるもの、更正請求に対して、更正処分が行なわれない場合の不作為の違法確認の訴、固定資産税の評価を争う固定資産評価審査会の裁決を争うもの、徴収手続等の違法を争う訴などいくつかの類型があります。
また、一般の取消訴訟は、不服申立てと訴訟のいずれかを選択できることを原則としていますが、税務訴訟については、国税通則法などで異議申立て、審査請求を経た後でなければ提起できないこととなっています。
2.行政事件訴訟の構造
行政事件訴訟は、行政事件訴訟法によって行われることになっています(行訴法§1)が、同法の定めのない事項については民事訴訟によることになっています(行訴法§7)。
憲法は、特別裁判所の設置を禁止(§76A)しており、行政訴訟も最高裁判所を頂点とする司法裁判所がこれを扱うことになっています。
旧憲法においては、行政裁判所があり、これが行政事件について法律で認められた範囲において判断していましたが「行政裁判所は、終審として裁判を行うことができない」(§76A後段)こととされるとともに、行政裁判所は廃止されました。
裁判には、刑事裁判と民事裁判がありますが、行政事件訴訟も国民の権利を守る制度である点で他の民事訴訟と異なりません。しかし、行政事件は、私人間の争いと異なり、公法上の法律関係を争うものですから、それに適応した訴訟手続が必要です。そのために定められたのが行政事件訴訟法です。そのかぎりでは、行政事件訴訟は、通常の民事訴訟、刑事訴訟と並んだ独立の体系の訴訟と考えられます(杉本良吉『行政事件訴訟法の解説』5頁以下)。(但し、これには行政法学の分野で異った学説があります。国民主権主義、基本的人権を定めた日本国憲法の理念と行政事件を特殊な類型とする考え方は、国家権力を国民の上に置こうとする考え方(公定力理論など)がその基礎にあると考えられるからです。)
したがって、税務訴訟は、裁判所の民事部で審理されます。
一審は、地方裁判 - 2 -所(支部は不可)の管轄で、合議制で行なわれます。(行訴法§12、但し、海難事件、特許事件など例外あり)。
3.行政事件訴訟の種類(行訴法§3)
1)抗告訴訟  行政庁の公権力の行使に関する不服についての訴訟(行訴法§@)
2)当事者訴訟 当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分、又は処分に対する裁決に関する訴訟で法令の規定でその法律関係の一方を被告とするもの及び公法上の法律関係に関する訴訟(行訴法§4)
3)民衆訴訟  国、公共団体の違法な行為の是正を求める訴訟で、自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起する訴訟(行訴法§5)
4)機関訴訟  国又は公共団体相互間の権限の存否またはその行使に関する紛争についての訴訟(行訴法§6)
4.行政事件訴訟と訴願前置主義(取消訴訟の場合)
1)処分取消しの訴えは、審査請求ができる場合でも直ちに出訴できます。ただし、法律に裁決を経なければ訴えを提起できない旨の規定があるときはできません(行訴法§8@)。 税務訴訟は、国税通則法87条により不服申立前置を強制しています。
2)裁決を経ないで出訴できる場合(行訴法§8A)
@ 審査請求後3か月を経過しても裁決のない場合
A 処分の執行等による著しい損害を避けるため緊急に必要のある場合
B その他正当な理由があるとき
5.取消訴訟の原告適格(行訴法§9)、取消理由の制限(行訴法§10)
1)処分取消しの訴えは、取消しにつき法律上の利益を有する者に限り提起できます(§9)。
2)自己の法律上の利益と無関係である場合は、訴えを提起することはできません(§10@)。
3)裁決取消しの訴えにおいては、処分の違法を理由とすることはできません(§10A)。
6.取消訴訟の被告適格(行訴法§11)
1)処分取消しの訴えは処分庁(国税局職員の調査に基づく更正処分も、処分庁は税務署長です。)
2)裁決取消しの訴えは裁決庁(税務訴訟では国税不服審判所長)
7.管轄裁判所(行訴法§12)
1)処分庁を被告とする取消訴訟は、その処分庁所在地の裁判所の管轄に属します。
2)管轄に関する規定は省略(行訴法§12A.B)
8.出訴期間(行訴法§14)
1)取消訴訟は処分又は裁決のあったことを知った日から3か月以内に提起しなければなりません@。
2)処分又は裁決があってから1年を経過したときは提起できませんB。
9.職権証拠調べ(行訴法§24)
1)裁判所は必要があるときは職権で証拠調べができます。その結果について当事者の意見を聴取しなければなりません。
10.執行停止と内閣総理大臣の異議(行訴法§25)
1)訴の提起は処分の効力、処分の執行、手続の続行に影響ありません(執行不停止の原則@)
2)裁判所は緊急の必要があるときは申立てにより執行停止をすることができますA。
3)執行停止の決定に対しては即時抗告ができます。
4)内閣総理大臣は、執行停止の申立ておよび決定に対して異議を述べることができます。この異議があったときは執行停止ができませんC。この場合、国会に報告しなければならずEやむをえない場合でなければ異議を述べることはできません。
11.事情判決(行訴法§31)
1)処分又は裁決が違法であるが、取り消しにより公の利益が著しく害されるときは、請求を棄却することができます。この場合、主文で違法を宣言します@。
2)終局判決前に判決で違法を宣言できますA。
12.取消判決の効力(行訴法§32.33)
1)判決は、処分庁、裁決庁はもとより第三者に対しても効力をもちます(§32@)。
2)取り消し判決が確定したときは、処分庁、審査庁は、判決の趣旨に従って改めて処分又は裁決をします(§33@)。
13.無効確認の訴え(行訴法§36)
1)原告適格  処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのあるもの、その他無効確認につき法律上の利益を有する者で、現在の法律関係に関する訴えで目的を達することができないものに限られます(例えば、無効な課税処分により滞納処分が続行される場合など)。
14.不作為の違法確認の訴え(行訴法§37)
不作為の違法確認の訴えは、処分又は裁決についての申請をしたものに限り提起することができます。税務訴訟では、更正の請求をしたにもかかわらず減額更正がされない場合などがこれに当たります。
15.民衆訴訟および機関訴訟(行訴法§42)
民衆訴訟および機関訴訟は、法律に定める場合において、法律に定めるものに限り提起できます。民衆訴訟の例、選挙関係訴訟、地方自治法上の住民訴訟等、機関訴訟の例 国家行政組織法、地方自治法上の職務執行命令訴訟等)

U 税務訴訟の実務

1.不服申立ての前置(通則法§87、通則法§75以下、前置については§115)
1)処分庁に対する異議申立て  処分があったことを知った日の翌日から2か月以内
2)異議決定後の処分になお不服があるとき  異議決定があったことを知った日の翌日から1か月以内に国税不服審判所長に対する審査請求
3)国税局職員の調査に基づく処分  国税局長に対する異議申立て
2.出訴期間
1)裁決があったことを知った日(翌日からではない)から3ヶ月
2)審査請求後3カ月を経過しても裁決がない場合、特に定めはないが、裁決があったときは、前項の期間内
3.訴えの提起(訴状の提出)
出訴期間、管轄裁判所については税務訴訟の項を参照
4.訴状の記載事項
別紙参照
5.口頭弁護期日の指定
6.準備書面と証拠の申請により争点の整理を行なう。口頭弁論は概ね2カ月に1回程度、処分の
  違法理由について、弁護士と協議して十分整理し、主張を準備書面にまとめる。

訴  状
平成  年  月  日
〇〇地方裁判所 御中
住 所
                原 告    氏 名
              (送達場所)
               弁護士事務所所在地
               電話          FAX
               原告代理人  弁護士  氏 名   印

               住 所   (処分庁の所在地)
               被 告     〇〇税務署長

課税処分等取消請求事件
訴訟物の価額  金     円(取り消しを求める本税の額)
貼用印紙額(訴額に対応した印紙)

請求の趣旨
 1.被告が平成〇〇年〇〇月〇〇日付で行った次の処分の取り消しを求める
    平成〇〇年分の所得税の更正処分及び加算税の賦課決定処分
 2.訴訟費用は被告の負担とする。
 との判決を求める。

請求の原因
 1.原告は、住所地において〇〇業を営む者であるが、平成〇〇年分の所得税に
ついて、平成〇〇年〇〇月〇〇日被告税務署長に対し事業所得の金額    円
とする確定申告書を提出した。
 2.これに対し、被告は平成〇〇年〇〇月〇〇日付で次のとおり更正処分および
過少申告加算税の賦課決定処分をした。
      事業所得の額        円
      所得控除の額        円
      課税所得の額        円
      納付すべき税額       円
      過少申告加算税の額     円
3.これに対し、被告は平成〇〇年〇〇月〇〇日被告に対して異議申立てを行った
が、平成〇〇年〇〇月〇〇日被告は申立てを棄却する(あるいは事業所得の金額を
一部を取り消して次のとおり)異議決定を行った。その異議決定書謄本は平成〇〇
年〇〇月〇〇日原告に送達された。
4.原告は、前項の異議決定後の金額になお不服があったので、平成〇〇年〇〇月
〇〇日、国税不服審判所長(〇〇国税不服審判所首席国税審判官)に対して審査
請求を行った。
5.国税不服審判所長は、平成〇〇年分の所得額について、以下のとおりその一部
を取り消す裁決を平成〇〇年〇〇月〇〇日付で行い、その謄本は平成〇〇年〇〇月
〇〇日原告宛に送達された。
6.しかしながら、本件更正処分は、以下のに理由により違法であるから取り消さ
れるべきである。
 (以下、違法理由)
7.前項記載のとおり本件更正処分は、違法であり取り消されるべきであるから、
違法な更正処分に基づいてなされた過少申告加算税の賦課決定処分もまた違法で
あり取り消しを免れない。

  証拠方法
 口頭弁論で提出する。

  添付書類
 1.委任状     1通
(補佐人の委任状は第1回口頭弁論期日に、代理人により提出する。)