全国商工新聞 2000/8/30付

税調答申/消費税は「欠陥税制」 税理士・関本秀治

 税調「中期答申」は消費税を基幹税制と位置づけ、21世紀にむけてその大増税をはかることを強く求めています。これは50年前のシャウプ勧告によって確立された戦後日本の税制の積極的な側面‐‐直接税中心、総合累進(るいしん)課税、生活費非課税などの民主的側面を根本から転換するものにほかなりません。
 シャウプ税制の民主的側面は日本国憲法が保障している基本的人権を税制面で支えるものとして大きな役割を果たしてきました。もちろんシャウプ税制がすべての面で憲法の精神に合致したものであるというわけはなく、たとえば企業税制におけるいわゆる「法人擬(ぎ)制(せい)説」による法人税制は法人の実態を無視した税制として、戦後の大企業の復活・強化に奉仕してきました。
 ところでシャウプ勧告のなかには事業税を付加価値税にすることが含まれていて、実際にそれが立法化(1950年)されました。これはシャウプ勧告の否定的な側面であり、これには中小業者・国民が強く反対、実施されないまま54年に廃止されました。それ以来、税調では64年を皮切りに何度か法人事業税の付加価値税化について検討し、答申に盛り込んできました。しかしこれまで立法化されることなく今日まで至っています。このことはシャウプ税制のもとで日本国民はその積極的な側面を支持し、否定的な側面を拒否したたかってきたことを物語るものです。
 政府は地方税としての付加価値税=外形標準課税を今日まで導入することができませんでした。しかし、国税としての付加価値税は大平内閣の一般消費税、中曽根内閣の売上税の失敗(国民的なたたかいで失敗させた)を経て、竹下内閣のとき現行消費税の導入をついに強行しました。
 政府税調の「中期答申」はこうした歴史的経過をふまえ、シャウプ勧告の積極的な側面(直接税中心、総合累進課税、生活費非課税)を形骸(けいがい)化し、「少子・高齢化社会」などを口実に消費税の大増税、外形標準課税の地方税への導入などを強く求めているのです。
 消費税は消費者にとっては逆進的負担となって生活を圧迫するだけでなく、収入のない子どもや老人など社会的弱者にたいしても一律に負担を強いる最悪の大衆課税です。そして経済的に弱い立場にある中小業者にとっては、転嫁が困難で、転(てん)嫁(か)できない場合はたとえ赤字でも身銭を切って納めなければならない過酷な企業課税となっています。
 消費税は本来、売値に上乗せして消費者や取引先に負担してもらうことを建前としている税制ですが、消費税法上の納税義務者はあくまで事業者です。したがって転嫁できたかどうかに関係なく売上高の中には消費税相当額が含まれているものとして計算されます。
 消費税は売上さえあれば赤字であろうが、資金繰りが苦しかろうが、遠慮会釈なくかかってきて経営を圧迫します。このことは最近の消費税の滞納額の発生状況に端的に表れています。
 国税庁が毎年発行する「国税庁統計年報書」(最新版は98年度版)から98年度の消費税の滞納状況をみると年間の申告件数は約230万件です。そのうち申告しても納税ができず滞納になってしまう件数が約115万件に達しています。これは申告件数にたいし49・78%で、毎年増加傾向にあります。つまり申告はしたものの2件に1件は納税できず滞納になってしまっているわけです。
 納税者が正直に申告しているのに半数近くが納めることができない‐。こんな税制がこれまであったでしょうか。
 「滞納即事業者のゴマカシ」という宣伝が意図的におこなわれていますがとんでもありません。「滞納」すれば延滞金が加算され、やがては差し押さえが待っています。消費税の滞納処分で倒産にしてしまった企業も少なからず出ています。これこそ消費税が「欠陥税制」であることの何よりの証明です。
 「中期答申」がいうように消費税増税の上に第二消費税といえる外形標準課税が事業税として導入されたとしたら、中小業者はもう営業を続けていくことさえ困難となるでしょう。消費税の増税、事業税の外形標準課税はともに断固阻止しなければなりません。